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松尾豊座長の発言から見る、日本のAI政策

論点整理(2023年)→ 制度設計(2024年)→ 基本計画(2025年)→ 実行体制(2026年)。

松尾座長の発言を日付つきでたどると、日本のAI政策の重心の移り方が見えてきます。

松尾豊氏は、AI戦略会議(2023年5月〜2025年6月)の座長、AI制度研究会(2024年夏〜)の座長、人工知能戦略専門調査会(2025年9月〜)の座長を務めています。この記事では、これらの会議の議事要旨・議事概要から、座長の発言として記録されているものを会議ごとに整理します。

注意:議事要旨・議事概要は要約で、全発言ではありません。ここで「松尾氏の発言」とするのは、座長の発言として明記されたものだけです。また、発言と政策のテーマが重なっても、因果関係までは言えません。

※発言の抜粋は、WebPitaが整理した資料も参照し、内閣府の公開資料で照合しています。

1. 座長発言の時系列(2023〜2026年)

日付会議松尾座長の発言(要旨)出典
2023-05-11AI戦略会議 第1回AIをめぐる論点を整理し、今後の議論のスコープ(範囲)にしたいと説明。議事要旨
2023-12-21AI戦略会議 第7回広島AIプロセス、AI事業者ガイドライン、翌年の会議の課題を議論のスコープとすると説明。議事要旨
2024-05-22AI戦略会議 第9回座長資料「生成AIの産業における可能性」を説明。資料の中身は議事要旨に記載がない。内閣官房副長官は、アジアでの日本の位置づけや医療・ロボットなどでの利活用が書かれていたと述べている。議事要旨
2024-08-02AI戦略会議 第11回
(AI制度研究会 第1回との合同)
AI戦略会議座長・AI制度研究会座長として、利活用と開発力強化を進めること、技術と制度の両面で安全性を高めること、リスク対応とイノベーション促進のバランスが重要であることを述べた。議事要旨
2024-12-26AI戦略会議 第12回
(AI制度研究会 第6回との合同)
中間とりまとめ案を説明。基盤モデル・計算資源、専門人材、学習用データの強化。ロボット・医療・防災などの重視分野とアジア連携。過剰な規制は避けつつ必要な対策をとること。政府による調達・利用、国の指針、司令塔機能の強化。政府に法案の速やかな検討を要望。公表前の細かな修正は座長一任となった。議事要旨
2025-02-04AI戦略会議 第13回
(AI制度研究会 第7回との合同)
パブリックコメントを踏まえた修正案が了承され、「中間とりまとめ」として確定。統合イノベーション戦略推進会議へ報告するとした。議事要旨
2025-06-02AI戦略会議 第14回イノベーション促進とリスク対応を両立する日本型のAI法を評価。医療、行政事務、ロボットでの活用、大学・高専での人材育成、スタートアップの創出、デジタル赤字の解消、グローバルサウスやアジアでの協力に言及。議事要旨
2025-11-04人工知能戦略専門調査会 第2回基本計画骨子案と指針骨子の論点を提示し、6つのテーマ別ワーキンググループの設置を提案(異論なく決定)。総括では、AIは成長の中心的な柱であること、予算は産業との掛け算を意識すること、政府自身が率先して活用すること、数値目標は慎重に設計することに言及。議事概要
2025-12-05人工知能戦略専門調査会 第3回基本計画案は簡潔で明確と評価。KPIは拙速でなく慎重に設計すべきとし、産業競争力へのつなげ方や司令塔機能にも言及。基本計画案と指針案の最終的な取扱いは座長一任となった。議事概要
2026-04-09人工知能戦略専門調査会 第4回AI戦略を立体化する三つの軸を提示。①米国・中堅国・グローバルサウスとの関係、②国内の多様な担い手に期待する行動、③法律・ガイドライン・資格・認証・補助金などの政策手段の体系的な整備。議事概要
2026-06-26人工知能戦略専門調査会 第6回ソブリンAIやAIスタック全体を見据える必要、AIとサイバーセキュリティの融合、AI時代の価値観の変化を重要論点とした。事務局(AI政策推進室)の体制強化が重要とも述べた。AI制度を議論する新ワーキンググループの設置と、基本計画推進ワーキンググループの夏からの集中的な議論を表明。基本計画案とバーティカルAI領域別戦略素案の最終的な取扱いは座長一任となった。議事概要

表の発言は、いずれも座長として記録されたものです。2023年は、論点を整理して議論の範囲を決める進行役としての発言が中心です。2024年から、開発・活用の強化とリスク対応を並行して進める方針、制度の設計、司令塔機能の強化といった具体的な提案が増えています。2025年以降は、基本計画の骨子づくり、KPI、ワーキンググループの設置など、実行の仕組みに話題が移っています。

※掲載は一部の回です。第2〜6回、第8回、第10回のAI戦略会議、専門調査会第1回・第5回は掲載していません。

2. 現在のAI政策との関係

AI法は2025年9月1日に全面施行され、9月12日に第1回の人工知能戦略本部が開かれました。本部長は内閣総理大臣です。内閣府の発表によると、AI戦略会議が検討した事項は、人工知能戦略専門調査会に引き継がれています。

人工知能基本計画は、2025年12月23日に初めて閣議決定され、2026年7月14日に第Ⅱ期が閣議決定されました。第6回では、小野田大臣が、AIを前提に組織や意思決定の在り方を見直すAX(AIトランスフォーメーション)の推進を挙げています。計画の基本的な方針は、①AIを使う、②AIを創る、③AIの信頼性を高める、④AIと協働する、の4つです。

基本的な方針関連する座長発言(回)
AIを使う医療・行政事務・ロボットなどでの活用(第14回)。政府自身の率先した活用(専門調査会第2回)。
AIを創る基盤モデル・計算資源・人材・学習用データ(第12回)。スタートアップの創出、デジタル赤字の解消(第14回)。
AIの信頼性を高める過剰な規制を避けつつ必要な対策をとること、国の指針(第12回)。AIとサイバーセキュリティの融合(専門調査会第6回)。
AIと協働するAI時代の価値観の変化を重要論点として挙げた(専門調査会第6回)。

※対応関係は筆者による整理です。計画の各項目が、特定の発言から生まれたことを示すものではありません。

テーマが重なることは確認できますが、計画の内容を誰が決めたのかは、この資料だけでは判断できません。決定の主体は政府です。

3. 座長の関与は、どこまで確認できるか

議事要旨・議事概要から確認できる関与を、4つの段階に分けます。

段階1:議題を設定する

論点の整理・提示(第1回、第7回、専門調査会第2回)。座長の発言として確認できます。

段階2:制度・体制の設計に関わる

AI制度研究会の座長として中間とりまとめを説明し、政府に法案の検討を要望(第12回)。6つのワーキンググループの設置を提案(専門調査会第2回)。確認できます。

段階3:取りまとめを任される

中間とりまとめの修正(第12回)、基本計画案・指針案(専門調査会第3回)、基本計画案・領域別戦略素案(第6回)の取扱いが座長一任に。確認できます。

段階4:政府が正式決定する

閣議決定、法律、予算。決定の主体は政府です。人工知能戦略本部の本部長は内閣総理大臣です。

第14回では、城内科学技術政策担当大臣(当時)が、松尾座長に制度検討や法案審議への尽力への謝意を述べています。松尾氏自身も、衆議院の参考人質疑で意見を述べたと発言しています。専門調査会の座長は、設置に関する人工知能戦略本部決定(2025年9月12日)で、委員の互選により決めるとされています(委員は内閣総理大臣が任命)。

一方で、社会に生まれた成果(生産性、技術力、雇用、安全性など)は、発言や計画からは評価できません。実績データが必要です。

4. 第6回議事概要に見る、他の委員の指摘

2026年6月26日の第6回では、基本計画案とバーティカルAI領域別戦略素案が議論されました。座長以外の委員や大臣からは、次のような発言がありました。

発言者内容
小野田大臣基本計画素案へのパブリックコメントは約9,000件。主に「信頼できるAI」をいかに実現するかという観点だった。
福岡委員約9,000件にはAIボットによる投稿が多数含まれていたと推測され、技術的対策を含む対応が必要。来年の計画見直し時に進捗確認のセッションを設けてほしい。
江間委員人権・民主主義・権力といった観点を政策に取り入れ、市民との対話姿勢を明確にすべき。計画書はアカウンタビリティへの言及が少なく、責任の空白地帯を生まないことが重要。
山口委員自律型の情報操作・認知戦も、自律型サイバー攻撃と並ぶ安全保障リスクとして位置づけるべき。

座長の発言だけを追うと、議論が一枚岩に見えることがあります。実際の会議では、目標の測り方、信頼性、責任の所在について、委員から具体的な指摘が出ています。

5. これから注目したい、3つのポイント

① 目標と進捗は、どう測るか

松尾座長は、数値目標の設定は慎重な設計と検証・改善の仕組みが重要だと述べ(専門調査会第2回)、KPIは拙速でなく慎重に議論すべきだと述べています(第3回)。福岡委員は、来年の計画見直し時に進捗確認の場を設けるよう求めました。計画が毎年見直される中で、どの指標が使われるかが注目点です。

② 新しいワーキンググループは、何を決めるか

第6回で、AI制度を議論する新しいワーキンググループと、基本計画推進ワーキンググループの夏からの集中的な議論が示されました。これらの議論が、制度や施策にどう反映されるかは、今後の資料で確認できます。

③ 信頼性と責任の所在は、どう整理されるか

第6回では、自律行動型AIの責任分界や、アカウンタビリティの仕組みについて複数の委員が課題を挙げました。安全性とイノベーションの両立が、制度として機能するかが問われます。

6. まとめ

議事要旨・議事概要から確認できる松尾座長の発言は、2023年の論点整理から、2024年の制度設計(開発・活用の強化とリスク対応の両立、司令塔機能)、2025年の基本計画づくり(KPI、ワーキンググループ)、2026年の実行(国際連携、AIとサイバー、ワーキンググループ)へと広がっています。

座長は、議題の設定、制度設計への提案、取りまとめの一任という形で、政策形成に関わっていたことが確認できます。ただし、最終的な決定は政府が行い、成果の評価には計画・予算・実績が必要です。発言を読むことは、政策の方向性を理解する手がかりになります。

補足

松尾氏の立場と最新動向

松尾氏は東京大学大学院工学系研究科の教授で、日本ディープラーニング協会の理事長(代表理事)です。ソフトバンクグループの社外取締役(2019年6月〜)と、パナソニックホールディングスの取締役(2025年6月〜)も務めています(ソフトバンクグループの役員紹介、2026年6月1日現在の記載)。また、株式会社松尾研究所の技術顧問も務めています(東京大学松尾・岩澤研究室、2026年1月)。

最近の動き

  • 2026年2月:国連総会により「AIに関する独立国際科学パネル」のメンバーに任命(任期3年、東京大学松尾・岩澤研究室)。
  • 2026年7月1日:TOPPANホールディングスの寄付をもとにした東京大学の「AIイノベーション研究センター」が開設され、センター長に就任(TOPPANホールディングス)。
  • 2026年10月1日:東京大学発のAIスタートアップ、株式会社2WINSが、松尾氏の技術顧問就任を発表(PR TIMES)。
  • 2026年10月8日〜:松尾・岩澤研究室の公開講座「深層学習 基礎講座2026 Autumn」の第1回を担当(東京大学松尾・岩澤研究室)。

AI制度研究会の発足時(2024年7月)には、構成員に日本ディープラーニング協会の専務理事も含まれていました(第11回議事要旨)。ここに挙げたのは立場や活動に関する事実の記載であり、特定の評価を示すものではありません。

会議の現在の状況(2026年10月17日時点)

会議最後の開催現在の状況(内閣府の公開ページ)
AI戦略会議第14回
2025年6月2日
内閣府のAI戦略のページでは、「その他(終了したものを含む)」の欄に掲載されています。第14回より後の開催は掲載されていません。検討事項は人工知能戦略専門調査会に引き継がれました。
AI制度研究会第7回
2025年2月4日
AI戦略会議との合同開催で、中間とりまとめを確定しました。「その他(終了したものを含む)」の欄に掲載されており、以降の開催は掲載されていません。
人工知能戦略専門調査会第6回
2026年6月26日
「主な会議」の欄に掲載されている現行の会議です。第6回が最新で、第7回以降の掲載はありません(第5回は非公開)。座長の松尾氏が第6回で表明した、AI制度を議論する新ワーキンググループと基本計画推進ワーキンググループの開催情報は、同ページには掲載されていません。

人工知能基本計画(第Ⅱ期)は2026年7月14日に閣議決定されました。内閣府のAI戦略のページに載っている最新の動きは、2026年9月18日の「令和9年度予算の概算要求におけるAI関連予算」の公表です(内閣府AI戦略)。人工知能戦略本部の最新の会合は、2026年7月10日の第5回です。

※公開ページに載っていないことは、開催されていないことを意味するとは限りません。

出典

  1. 内閣府「AI戦略会議」 — 第1〜14回の議事要旨(2023年5月〜2025年6月)。
  2. 内閣府「人工知能戦略専門調査会」 — 第1〜6回の議事概要(第5回は非公開)。
  3. 内閣府「人工知能基本計画」 — 第Ⅰ期・第Ⅱ期。
  4. 首相官邸「第1回人工知能戦略本部」(2025年9月12日)。
  5. 内閣府「AI法 全面施行」 — AI戦略会議の検討事項の引き継ぎ。
  6. 人工知能戦略専門調査会の設置について(設置紙) — 座長は委員の互選、委員は内閣総理大臣が任命、ワーキンググループを置けるとする旨の記載。
  7. 議事要旨・議事概要から松尾豊座長の発言を時系列で整理した資料 — 発言抜粋の補助資料。網羅的な逐語録ではない。

※調査基準日:2026年10月17日。議事要旨・議事概要は要約であり、非公開会合や未掲載の発言は確認できません。

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